ビラ配りの自由広げた 国公法弾圧2事件
最高裁が一律全面禁止の判例を事実上変更
堀越さん無罪確定 宇治橋さん不当判決 最高裁
国家公務員が休日に職務と関係なく一市民として政治的なビラを配ったことが国家公務員法・人事院規則に反するとされた国公法弾圧2事件で、最高裁第2小法廷(千葉勝美裁判長)が12月7日、判決を言い渡しました。
堀越事件(堀越明男さん)について、検察の上告を棄却し、無罪判決。一方、世田谷事件(宇治橋眞一さん)については、宇治橋さんの上告を棄却し、二審・有罪判決(罰金10万円)を支持する不当判決でした。
判決直後、堀越さんは、「無罪確定を喜びたい。しかし、憲法違反の猿(さる)払(ふつ)判決を変更しなかったことに怒りを感じる。また世田谷事件を有罪にしたのは本当に不当だと思う」と述べ、「私の無罪は、これまでともに奮闘してきた弁護団、支援者のみなさんとともに勝ちとったものだと思います」とお礼の言葉を述べました。
宇治橋さんは、「極めて不当な判決だ。これが最高裁の判決か。一国民として恥ずかしい。堀越さんを無罪としたからには、猿払判決を見直すべきだ。にもかかわらず、猿払判決の見直しから逃げ回ったのが今回の判決だ。私は管理職でないにもかかわらず、『管理職的地位』などと検察が使った論法で有罪判決を出したのは許せない。ただ、今回の判決で、少しは国家公務員の市民的権利が回復するのではと思う」と述べ、これまでの支援に感謝の言葉を述べました。
堀越さんの無罪が確定したことで、国家公務員が休日に職務と関係なく一市民として政治的ビラを配ることは違法ではないことを最高裁は認めました。これは、言論活動を不当に規制してきた猿払事件最高裁判決を事実上変更させるもので、画期的です。言論活動の大切さがあらためて確認されました。
この成果は、堀越さん・宇治橋さん両当事者が弁護団と国公法共闘会議に結集する支援団体と固く団結してたたかってきたこと、違憲無罪を求めて最高裁に提出された18万2000人分を超える署名に表れた国民の運動、そしてこれまでの選挙弾圧事件、ビラ配布弾圧事件のたたかいによって勝ちとられたものです。
闘いの歴史が生んだ勝利 自由な政治活動を阻害する流れに楔
国家公務員の職種、職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなくほとんど一切の政治的行為を禁止した猿払事件最高裁判決を実質的に変更し、多くの公務員が一市民として勤務外で行うビラ配布は犯罪でないとした今回の国公法弾圧2事件の判決。判決の到達点と問題点を見ます。
これまで最高裁は猿払事件(74年)で、公務員の職種や職務権限等の区別なくほぼ一切の政治的行為を禁止することを認めていました。
今回の判決は、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為のみが禁止されるとの判断を示しました。そのうえで、堀越さんについては、「管理職的地位になく、その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって、職務と全く無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり、公務員による行為と認識しうる態様で行われたものでないから」、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められないとしました。
今回の判決では、事案が違うから、判決はその事件についての解決のために出すだけのものだからと猿払判決を変更しないとしましたが、猿払判決と今回の判決の差は歴然としています。休日に一市民として行うビラ配布は多くの国家公務員にとって、国公法が禁止する「政治的行為」ではないことになったのです。
違憲無罪を求めて
全国で会員が奮闘
これは、憲法に保障された国民の重要な権利である「言論・表現の自由」を求める長いたたかいの中での大きな前進といえます。国公法弾圧事件だけで言っても、国民救援会は、国公法共闘会議に結集し、これまで全国で12万人分を超える「国公法弾圧2事件を大法廷に回付し、違憲無罪の判決を求める」との国民の声を署名の形で最高裁に届けてきました(国公法共闘会議全体では、18万2千人分超)。国民救援会の会員をはじめ、多くの方が、全国津々浦々で、自分の周りの人々に事件の説明をし、「なんとしても違憲無罪を勝ちとりたい」と奮闘しました。堀越事件無罪判決は国民の声と運動で、まさに勝ち取った判決です。多くのマスコミも、「公務員と政治 過剰なしばり解く判決」(朝日)などと今回の堀越事件無罪判決を歓迎しています。
同時に、今回の無罪判決は、大量の警察官や警察車両などを動員して、堀越さんを尾行・盗撮し、プライバシーを根こそぎ侵害した警備・公安警察の違法捜査を厳しく断罪する結果となりました。マスコミも、「公務員政治活動 過剰な摘発への警鐘だ」(毎日)などと批判しています。
最近、大阪市職員の政治的行為禁止条例の制定や地方公務員法「改正」案の提出など、地方公務員の政治的行為を国家公務員並みに一律全面的に禁止しようとする動きが強まっています。今回の無罪判決は、こうした自由な政治活動を阻害する流れに、楔(くさび)を打つものとなりました。
有罪に反対する
少数意見の裁判官も
一方、今回の判決には大きな問題があります。
第1に、2事件を大法廷に回付しなかったことです。猿払事件の最高裁判決が、国公法の国家公務員による政治行為を一律全面禁止する規定を合憲としていたため、この猿払判決を変更するには、大法廷への回付し、憲法判断することが必要でした。「猿払判決を変更せよ」「不合理な政治活動規制をやめよ」との国民世論や国際自由権規約委員会からの勧告に正面から答えるのではなく、逃げ回った末の判決でした。
第2に、世田谷国公法事件の有罪判決です。堀越事件も世田谷事件も、職務と全く関係のない、外観からはビラ配布者が国家公務員であることが全くわからないという点では共通しています。そうであれば、宇治橋さんのビラ配布行為によって、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なう実質的なおそれはありません。その証拠に宇治橋さんは行政から何の処分もされていません。世田谷事件の判決で反対意見を書いた須藤判事は、勤務外で行われた宇治橋さんの行為からうかがわれる政治的傾向が職務遂行に反映するということはないとしました。多くのマスコミも、「勤務時間外の休日に、地位を利用せず公務員であるとも明かさずに、郵便受けに機関紙を配布した元課長補佐の行為に、観念的ではなく実質的な『政治的中立性を損なう』おそれがあるのだろうか」(北海道新聞)と疑問を投げかけています。
私たちは国家公務員のビラ配布の自由を基本的に勝ち取りました。言論表現の自由を守り発展させるため、引き続き奮闘しましょう。
▼国公法弾圧堀越事件
2003年11月の総選挙の時に、東京・目黒社会保険事務所に勤めていた年金審査官の堀越明男さんが、休日を利用して、自宅近くで、職務と関連なく、「しんぶん赤旗」号外を配った行為が、国公法違反として、翌年3月に逮捕・起訴された事件。1審は執行猶予付の罰金有罪、2審は無罪。
▼世田谷国公法弾圧事件
2005年、厚生労働省に勤めていた宇治橋眞一さんが総選挙投票日前日に、休日を利用し職場と離れた世田谷区内で、そうとは知らずに警察官舎に日本共産党のビラを配布。住居侵入罪で逮捕しながら、住居侵入罪では起訴をせず、国公法違反で起訴された事件。1、2審とも罰金有罪。
公務員個人の権利を広げる一歩に
東京慈恵会医科大学・小澤隆一さん
判決日に行われた判決報告集会での、東京慈恵会医科大学・小澤隆一教授(憲法学)の発言を紹介します。
堀越さん、おめでとうございます。宇治橋さん、さぞ悔しいことでしょう。それでも今日の2つの判決で、最高裁が、公務員の個人としての政治的権利を否定できなかったことは重要です。
今の日本の公務員の政治活動規制は、あべこべです。個々の公務員をかくも厳しく制限・処罰しておきながら、高級官僚が裏で行う政治活動は事実上野放し。高級官僚がその地位にとどまりながら政治的な発言をしても大目に見られています。規制してはならないことと、すべきことがひっくり返っています。
公務員の政治活動禁止の実質的根拠は、職務専念義務と地位利用の禁止のはずです。ところが、今回の総選挙では、現職の知事や市長が政党の代表や代表代行として延々と政治活動をしています。これこそ、職務専念義務違反、地位利用ではないでしょうか。選挙で選ばれているからで見過ごしてよい問題でしょうか。こうした知事や市長の政治活動が容認され、脚光を浴びさえする状況もまた、あべこべです。この状況は何としても変えねばならない。
そうした中で、今回の堀越さんの無罪判決と宇治橋さんの判決中の少数意見は、公務員でも個人として政治的権利がある、個人の政治的意思と権利こそ尊いことをはっきりと示しました。
私たちは、そこに確信をもって、公務員の政治的権利の実現にむけてさらに進んでいきましょう。